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怪異読本怪異事例の収集・調査記録

No.028 さとるくん

AI生成イメージ:夜、車内から見た雪の残る山道。ヘッドライトに照らされた道が奥で右へ曲がり、右にガードレール、左に雪の岩肌。

公衆電話から自分の携帯電話へかけて呼ぶと、居場所を告げる電話が続いて近づき、最後は後ろに来てどんな質問にも答える。振り向けば連れて行かれるとされるさとるくんの噂をもとに、一人称で再構成した怪異体験とAIによる分析。

分類:都市伝説

記録番号
No.028
分類
都市伝説
参照記録数
5

先に分かる要点

  • さとるくんは、公衆電話から自分の携帯電話へかけて呼びかけると、居場所を告げる電話をくり返しながら近づき、最後は呼んだ人の後ろに来てどんな質問にも答える、と語られる都市伝説である。
  • 後ろに来たさとるくんを振り返ったり、質問をしなかったりすると連れて行かれる、とされる。連れて行かれる先は、紹介する記事によって書き方が違う。
  • この物語は、ネット上のまとめや解説記事に残るモチーフから組み立てた再構成であり、実際にあった出来事の記録ではない。

峠の電話は、走る車に追いついてきた

月に一度、土曜に実家へ帰り、日曜の夜に峠を越えて自分のアパートへ戻る。結婚して町を出てから、それが私の決まった週末になっていた。

その冬の日曜も、実家を出たのは夜の八時過ぎだった。夫は出張中で、助手席には母が持たせた野菜の袋が載っていた。おなかの子は六か月に入ったところで、予定日は四月の半ばだった。

峠へ上る手前に、もう列車の止まらない古い駅がある。駅舎の窓は板でふさがれているのに、その前の公衆電話だけは、いまも明かりをつけて立っている。

高校のころ、私たちはあの電話の前で、よくさとるくんの話をした。公衆電話に十円玉を入れて、自分の携帯電話にかける。呼び出し音が鳴っているあいだに「さとるくん、さとるくん、おいでください」と三回唱えて、切る。すると一日のうちに、さとるくんから電話がかかってくる。さとるくんは電話のたびにいまいる場所を言いながら近づいてきて、最後は呼んだ人の後ろに来る。後ろに来たさとるくんは、どんな質問にも答えてくれる。ただし、振り向いたら連れて行かれる。質問をしなくなっても、連れて行かれる。

友だちの一人は、もう一つ付け足していた。答えを知っていることを聞くと、さとるくんは怒る。

その夜、私は駅の前で車を止めた。

二週間前の健診で、先生は画面を見ながら少し黙った。女の子ですね、と言ったあとで、来月もう一度くわしく見ましょう、と続けた。何を見るのかは、はっきりとは言われなかった。夫は、大丈夫だよと言った。母も同じことを言った。けれど二人とも、本当に大丈夫かどうかを知っているわけではない。私は、答えを知っている誰かに、大丈夫だと言ってほしかった。

本気で信じていたわけではない。ただ、十円玉を一枚入れるだけで済むのなら、やらずに帰ったほうが、あとでずっと気になりそうだった。

電話ボックスの中は、外と同じくらい冷えていた。財布の底から十円玉を出して入れ、自分の番号を押すと、コートのポケットで携帯が震えだした。呼び出し音を聞きながら、私は小さな声で三回さとるくんを呼び、受話器を置いた。ポケットの震えが止まり、それきり何も起きなかった。自分が少しおかしく思えて、私は笑いながら車に戻った。

最初の電話は、峠の上り坂に入ってすぐに鳴った。携帯は車のスピーカーにつないであり、カーナビの画面には「非通知」と出ていた。ハンドルのボタンを押すと、男の子の声がした。

「いま、駅の公衆電話にいるよ」

それだけ言って、電話は切れた。

駅は、五分前に通り過ぎた場所だった。誰かの悪い冗談だと思おうとした。けれど、私があの電話を使ったところを見ていた人はいない。ほかに車も、人の姿もなかった。

二度目は、川を渡る橋を越えたあとに鳴った。

「いま、橋の上にいるよ」

私は時速五十キロで走っていた。ミラーに映る道は真っ暗で、後ろから来る車のライトは一つもない。それなのに声は、私が通った場所を、私が通ったのと変わらない間隔でたどってきていた。

三度目は「いま、トンネルを出たよ」だった。私がトンネルを抜けたのは、ほんの一分前だった。間隔が縮んでいる。追いつかれかけている、と思った。

車を止めて引き返すことも考えた。けれど、引き返せば、声のいる場所へ自分から向かうことになる。下り坂の先には町の明かりがある。人のいるところまで行けば何とかなると思い、私はアクセルを踏み込んだ。

四度目は「いま、きみの車のすぐ後ろだよ」。ミラーには、やはり暗い道しか映っていなかった。

五度目の電話が鳴った。ボタンを押す指が震えた。

「いま、きみの後ろにいるよ」

同じ声が、スピーカーからと、私の真後ろの席から、同時に聞こえた。

シートがきしむ音はしなかった。ドアの開いた音も、もちろんしていない。ただ、首の後ろだけが、窓を開けたときのように冷たくなった。

ルームミラーに目をやりかけて、私は止めた。鏡に映ったものを見るのが振り向いたことになるのかどうか、私は知らなかった。知らないのなら、見ないほうがいい。私は左手を伸ばしてミラーを天井のほうへ押し上げ、ヘッドライトに照らされた前の道だけを見た。

黙っていたら、質問をやめたと思われるかもしれない。私は、そのために車を止めた質問を口にした。

「おなかの子は、元気に生まれますか」

少し間があって、真後ろの声が言った。

「生まれるよ。雪の朝に」

予定日は四月の半ばだった。四月にこのあたりで雪が降ることは、まずない。違う、と言いかけて、私はその言葉を飲み込んだ。言い返しても質問にはならない。

次の質問を探した。いちばん先に浮かんだのは、男の子か女の子か、だった。口を開きかけたところで、健診の先生の声を思い出した。女の子ですね。私はもう、その答えを知っている。答えを知っていることを聞くと怒る、と友だちは言っていた。

私は唇を噛んで、その質問を捨てた。

知らないことだけを聞かなければならない。それがこんなに難しいとは思わなかった。夫が今夜何を食べたかも、母がいま何をしているかも、考えれば見当がついてしまう。見当がつくことを聞いてもいいのかどうか、私には決められなかった。だから、本当に見当のつかないことを選んだ。

「この先の、町の最初の信号は、赤ですか」

「赤」

「私が生まれた日の天気は、何でしたか」

「くもり」

母からも聞いたことのない話だった。答えはどれも、迷わずに短く返ってきた。けれど、次の質問を探すあいだの沈黙は、一つ聞くごとに長くなっていった。そのあいだに、声のする場所は少しずつ前へ寄ってきた。最初は後ろの席から聞こえていたのが、下り坂の半ばでは、運転席のヘッドレストのすぐ裏から聞こえた。

下り坂が終わり、町の最初の信号が見えた。赤だった。

私は車を止めた。止まっているあいだも、質問を切らすわけにはいかない。赤い光を見ながら、私はもう一つ、答えの分からないことを聞いた。

「この信号は、あと何秒で青になりますか」

答えは返ってこなかった。

私は待った。信号が青に変わっても、後ろは静かだった。首の後ろの冷たさも、いつのまにか消えていた。いなくなったのかもしれない。けれど、私を振り向かせるために黙っているのかもしれない。どちらなのか分からない以上、確かめるわけにはいかなかった。私はミラーを押し上げたまま、アパートまでの十五分を走った。駐車場に車を止めると、後ろの席を一度も見ずに部屋へ上がり、朝まで車へは戻らなかった。

翌朝、外が明るくなってから、私は後ろのドアを開けた。後部座席には何もなかった。ミラーを元の向きに戻したのは、そのときだった。

翌月の健診で、先生はもう一度画面を見て、心配ありませんと言った。前の月に何を見ていたのかを、私は聞かなかった。

予定日まで三週間ある三月の終わりの明け方、おなかが痛みだした。夫の運転で家を出ると、フロントガラスに白いものが当たっては溶けていった。その年の最後の雪だった。娘はその朝、大きな声で泣きながら生まれた。

窓の外の雪を見ながら、私は峠の車の中で聞いた答えを思い出していた。雪の朝に、とあの声は言った。あのとき違うと思った答えは、当たっていた。

娘はいま五歳になる。チャイルドシートを付けたのは、運転席の真後ろの席だった。あの夜そこに座っていたものが何だったのか、なぜ信号の質問にだけ答えなかったのかを、私はいまも知らない。

実家へ帰るときは、遠回りでも高速道路を使うようになった。あれから、夜にあの峠を越えたことはない。古い駅の前の公衆電話がまだ立っているのかどうかも、確かめていない。

後ろに来てから答える声は、何に似ているのか

この物語で奇妙なのは、語り手が呼んだ声が、電話のたびに語り手の通った場所をなぞって近づき、最後は運転席の真後ろから質問に答え始めることだ。何でも答えてくれる相手なのに、語り手は振り向くことも、黙ることも、知っていることを聞くこともできない。

この骨組みは、ネット上のまとめや解説記事が紹介するさとるくんの噂に沿っている。公衆電話から自分の携帯電話へかけて呼ぶと、いまいる場所を告げる電話が続いて近づき、最後は呼んだ人の後ろに来て、どんな質問にも答える。振り返ったり質問をしなかったりすると連れて行かれる、とされる。答えを知っている質問をすると怒るという決まりは、取得した資料のうち一つの解説記事だけが挙げている。呼びかけの文句や連れて行かれる先は記事ごとに書き方が違い、この物語はその一つを選んだ。峠道を走る語り手やおなかの子の事情は、記録には無い。

場所を告げながら近づき、最後に後ろにいると知らせる筋は、メリーさんの電話と共通する。海外のまとめを訳したカラパイアの記事でも、メリーさんの電話は、あなたの後ろにいるという電話で終わる話として並んでいる。違うのはその先である。メリーさんの話は後ろに来たところで終わるが、さとるくんの噂は、後ろに来てから問答が始まる。名前については、人の心を読む妖怪の覚(さとり)から来たという説を紹介する解説記事もある。ただ、どの記事も最初の投稿を示しておらず、初出は確認できなかった。

一つの見方としては、後ろという位置そのものが決まりになっている、と読める。相手は見えない場所にいて、見れば連れて行かれる。答えをもらうあいだ、呼んだ人は背中を相手に預けたままでいるしかない。語り手がルームミラーまで押し上げたのは、この決まりを鏡にまで広げて守ろうとしたからだと考えられる。

もう一つは、何でも答える力と禁止の組み合わせが、問う側を追い込むという見方である。知っていることは聞けず、黙ることもできないので、聞いてよいのは本当に分からないことだけになる。心を読む覚の説は、相手がこちらの知っていることまで見通している、という点でこの決まりと重なる。ただし、名前の由来を確かめられる資料は無い。

物語の声は、信号が青になるまでの秒数にだけ答えなかった。その理由は分からない。噂の中のさとるくんも、呼んだ人の背中のすぐ後ろで問いに答え、振り向かずに問い続けることを求める存在として紹介されている。物語の声が最後に黙ったのも、その背中の後ろだった。

出典

  1. 日本の都市伝説が海外でどのように報じられているのか?(ホラー注意)
  2. 【公衆電話から呼び出す恐怖】都市伝説「さとるくん」とは?その正体・特徴・恐ろしい伝承を解説!
  3. 【メリーさん】妖怪・怪人の都市伝説まとめ【八尺様】
  4. ネットロア : ウェブ時代の「ハナシ」の伝承
  5. 異なるメディアにおける怪談の物語構造の比較