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怪異読本怪異事例の収集・調査記録

きさらぎ駅 二十分停まらない電車の先に、聞いたことのない駅名があった

掲示板の実況スレッドに書き込まれたとされる、実在しない無人駅「きさらぎ駅」の体験談。転載のモチーフをもとに一人称で再構成した怪談と、その後の書き込みや論文での扱われ方までをたどるAIの分析。

分類:都市伝説

記録番号
No.007
分類
都市伝説
参照記録数
4

先に分かる要点

  • きさらぎ駅は、掲示板の実況スレッドに書き込まれたとされる体験談に登場する、実在しない駅である。
  • 転載によれば、投稿者は長く停まらない電車の先で聞いたことのない無人駅に降り、検索しても存在しないその駅から歩き、山へ向かう車に乗ったまま、バッテリー切れの書き込みを最後に投稿が途絶えたと語られる。
  • この物語は、掲示板に残る書き込みの転載・要約をもとに組み立てた再構成であり、実際に起きた出来事の記録ではない。

二十分、電車が停まらなかった

その日の帰り、私はいつもの終電に乗っていた。

座席は半分ほど埋まっていて、ドア脇に立った私は携帯をいじっていた。気づけば、次の駅を告げるアナウンスがずいぶん長いあいだ無い。顔を上げて時計を見た。もう十分近く経っている。いつもなら、五分か、長くても八分で次のホームが来る路線だった。

そのまま待った。十五分。二十分。窓の外は、ずっと同じ暗闇だった。

車内を見回すと、座っている人たちはみな俯いたまま動かない。眠っているのだろうと思ったが、声をかける勇気は出なかった。もし起きなかったら、と考えてしまうと、それ以上近づけなかった。

私は携帯を出して、掲示板を開いた。身のまわりで何か変なことが起きたら、それをそのまま書き込むためのスレッドがある。何をどう書けばいいのか分からないまま、「乗ってる電車が二十分停まらない」とだけ打った。

すぐに返信が付いた。「寝過ごしただけじゃないの」「路線どこ」「一応落ち着いて」。画面の向こうに、誰かがいる。それだけで、少し息がしやすくなった。

目隠しの運転席と、知らないトンネル

不安になって、先頭車両まで歩いた。運転士に何が起きているのか聞きたかった。

運転席の小窓には、内側から目隠しのカーテンのようなものが下りていて、中の様子はまったく見えなかった。ガラスを軽く叩いて、声をかけてみた。

返事はなかった。

もう一度、少し強めに叩いた。それでも、カーテンの向こうで人が動く気配すらしなかった。

席に戻る途中、電車がふっと減速した。ようやく駅か、と思うより先に、車体がトンネルのようなものに包まれた。轟音が耳を塞ぎ、窓には自分の顔だけが白く映った。この路線に、こんな長いトンネルは無かったはずだ。毎日乗っているのだから、それだけは分かる。

抜けたとき、外の暗さは、さっきよりも一段深くなっていた気がした。

検索しても出てこない駅

電車は速度を落とし、小さなホームに停まった。

扉が開いた。冷たい空気が入り込んでくる。私は迷った末に、そのホームへ降りた。降りたのは私だけだった。座っていた人たちは、誰も顔を上げなかった。

扉が閉まり、電車は行ってしまった。

ホームには誰もいなかった。駅員室の明かりも消えている。蛍光灯が一本だけ、ホームの端で青白く点いていた。

駅名標を見上げた。

「きさらぎ駅」

聞いたことのない名前だった。私はそれを、そのまま書き込んだ。

しばらくして、返信がまとまって付いた。「調べたけど、そんな駅ない」「どの路線図にも出てこない」「念のためもう一回調べる」。何人もが、同じ結果を書いていた。私が立っているホームは、検索してもどこにも出てこないらしい。

足元には確かにコンクリートのホームがあって、目の前には駅名標がある。ここに立っているのに、誰の地図にも、誰の検索結果にも、この場所だけが存在しない。幽霊や物音より先に、その一点が私を落ち着かなくさせた。私が今いる場所は、この世界のどこにも繋がっていないのではないか。

草原と山しかない場所

改札らしきものを抜けて、駅の外に出た。

タクシーどころか、民家の明かりひとつ見えない。目が慣れてくると、広がっているのは丈の低い草原で、その先に山の黒い稜線が続いているだけだった。道路の形すら分からない。ここへ来るための道が、そもそも存在していないようだった。

そのとき、音が聞こえた。

どん、と腹に響く低い音。少し間を置いて、しゃらん、と細い音が重なる。太鼓と、鈴のような音だった。方角は分からない。近づいているのか遠ざかっているのかも分からないまま、しばらく続いた。

私はそれも書き込んだ。返信の文字が、さっきより少し慎重になっていた。「そこを動かないほうがいい」「いや、来た方向に戻れ」「線路をたどればさっきのトンネルに出るはずだ」。

音がふっと止んだ。さっきまでの闇より、その静けさのほうが重かった。

迷った末、線路沿いに来た方向へ歩くことにした。ここに突っ立っていても、誰も迎えには来ない。そう思うしかなかった。

線路を戻りながら

枕木を一本ずつ踏みながら歩いた。砂利が靴の下で鳴る。

不意に、後ろから声がした。

「線路を歩いたら、危ないよ」

振り向くと、少し離れた線路の上に、人影が立っていた。片足しかなかった。もう一方の足があるはずの場所には何もなく、それでも老人はまっすぐに、揺れもせず立っていた。声をかけようとした、その前に、老人は消えた。歩き去ったのでも、闇に紛れたのでもない。次の瞬間には、そこに枕木と砂利しかなかった。

何だったのか、考える余裕はなかった。私はただ、前へ歩き続けた。ここでは、立ち止まって理由を探すことのほうが分が悪い気がした。

出口のない山道

やがてトンネルの口が見えた。中は真っ暗で、息を止めるようにして入った。抜けた先に、車が一台停まっていて、その脇に人が立っていた。

事情を話すと、その人は近くまで送っていくと言ってくれた。人がいる、話ができる。それだけで泣きそうなほど安心して、私は助手席に乗った。スレッドにも「人に会えた、車で送ってもらう」と書き込んだ。「よかった」「気をつけて」。そんな返信が付いた。

車は走り出した。

最初は窓の外を見ていた。道は細く、両脇は黒い木々が続いていた。街の明かりを待っていたが、いつまでも見えてこない。それどころか、車は少しずつ坂を上っているようだった。

山のほうへ向かっている。

十分。二十分。カーブを曲がるたびに、もっと近くなるはずの何かが、いっこうに近づかない。同じ木、同じ暗さ、同じ坂が続いているようにも感じられた。まるでこの車だけが、どこにも着かない道を走らされているようだった。

運転している人は、前だけを見つめて、さっきまでの親しげな調子がどこにもなかった。話しかけても、返事がない。私は膝の上で携帯を握りしめ、震える指で打った。「山のほうに向かってる」「もう長い。全然着かない」。

返信が流れてきた。「今すぐ降りろ」「隙を見て逃げろ」「今どこだ」。

どこなのか、私にも分からなかった。窓の外には木々しかなく、来た方角も、戻る方角も、もう見分けがつかなかった。

バッテリーが切れる前に

画面の隅で、電池の残量表示が細くなっていた。十七パーセント。十二パーセント。数字が減るたびに、返信を打つ手が速くなった。

私は、最後になるかもしれない一文を打った。

「バッテリーがもう切れそうです」

送信したとき、車はまだ、山の奥へと走り続けていた。

スレッドには、その後も書き込みが続いたらしい。「おい」「大丈夫か」「レスまだ?」。何度も呼びかける言葉が並んだが、続きが返ってくることはなかった。問いだけが、宛先のないまま積み重なっていった。

実況という形式そのものが、怖さを支えている

きさらぎ駅の書き込みで目を引くのは、単発の怖い話というより、実況スレッドという形式そのものが恐怖を支えている点だ。投稿者が電車の遅延をその場で書き込み、読み手が「路線どこ」「今すぐ降りろ」と即座に返す。この往復が、出来事がいままさに進行しているという感覚を作り出している。目隠しされた運転席や片足の老人といった個々の怪異よりも、この双方向のやり取りそのものが怖さの骨格になっている点が、この物語を読み解く手がかりになりそうだ。

國學院大學大学院紀要に載った古山美佳の論文は、表題に「口裂け女」ときさらぎ駅の比較を掲げている。本文の内容はこの記事の材料からは確認できないが、この2つを比較の対象として選んでいること自体は、口伝えで広まった怪談と、掲示板への書き込みという形で広まった怪談のあいだに、何か比べるべき違いが見出されているということだろう。

一方、『世間話研究』に載った伊藤龍平の論文は「スマホサイズ化されるネットロア」という表題を持つ。中身までは分からないが、パソコンの掲示板で生まれた物語が、スマートフォンでの読まれ方へと形を変えていく過程に、伊藤が関心を向けていることは表題からうかがえる。

2011年に現れた「7年間で戻れた」とする書き込みは、成りすましを疑う声もあると転載記事は伝えている。真偽は判断できないが、後発の書き込みが元の投稿へ付け足されていくこと自体は、ネット上の怪談が一度の投稿で終わらず、時間をかけて外形を膨らませていく例として興味深い。ただし、この書き込みは最初の投稿を裏付けるものではなく、別の投稿として扱うのが妥当だろう。

きさらぎ駅という駅が実在しないことは、当のスレッドの中で住民が検索して確かめている。ここで確かめられるのは怪異そのものの実在ではなく、「そう書き込まれ、転載され、論文の題材にもなってきた」という記録の側である。

出典

  1. 【ホラー】きさらぎ駅|掲示板の内容まとめてみた(前編)
  2. 【概要まとめ】きさらぎ駅その7年後ともう1つのきさらぎ駅
  3. ネット社会における実況系ネットロアの伝播と活用:「口裂け女」と「きさらぎ駅」の比較から
  4. 「きさらぎ駅」今昔:スマホサイズ化されるネットロア